東京地方裁判所 昭和30年(ワ)7750号 判決
原告が昭和二十八年十二月被告に対し金銭を、利息日歩十銭、元利金の返済方法として毎日金二千円以上を原告の帝国銀行川崎支店における普通預金口座に払込むことなる約定のもとに貸付けたことは当事者間に争がなく、証拠によれば右貸借は元本の額を金三十万円、返済期を昭和二十九年三月三十一日と約したものであることが認められる。もつとも右弁済方法の特約に従い元利金の返済をなせば仮に右約定の元本額全部につき消費貸借が成立し且つ最少の日賦金額を以て返済をなしたとしても右約定の返済期が到来する数日前元利の支払が完了することは計算上明らかであるから特段の事情がない限り右明示の返済期はなんら意味を有するものではなく最少の日賦金額を以て元利金の支払が完了する日を暗黙のうちに返済期と定めたものと認めるのが相当である。
ところで右貸借につき原告は現実に金三十万円を貸付けた上利息引当として金一万円を預つた旨主張し被告は現実には金二十九万円の貸付があつたに過ぎない旨主張するので按ずるに、証拠を綜合すれば原告は前記契約と同時に金一万円を利息として天引し小切手により金二十九万円の授受をなしたこと、なお右利息の天引は前記弁済方法の特約があるため元本の額が毎月一定しない金額を以て逓減することが予想されるので期限までの利息の総数を確定することが不可能な関係上その一部の前払に止めたものであることが認められ、右認定に抵触する証人及び被告本人の各供述はいづれも措信することができない。そこで本件消費貸借が有効に成立した金額如何につき考えるとおよそ利息の天引も消費貸借の要物性を充足するものと解されるけれども、利息制限法超過の利息の天引は該超過部分につき金銭授受と同一の経済上の利益を債務者に与えたものといい得ないから消費貸借の要物性を欠如するものと解する。これを本件についてみると利息天引額たる金一万円が旧利息制限法所定の制限を超過することは利息並びに弁済期の約定に照し計算上明らかである。よつて前記約定利率を旧利息制限法所定の制限内たる年一割の利率に引直し且つ前記約定の最少の元利日賦金額たる金二千円宛弁済することを前提として現実に授受された金二十九万円が利息を控除した残額となるべき元本の額並びにこれが利息とともに支払完了となる日を計算すると、右元本の金額は金二十九万六千四十一円六十七銭、右最終返済期は昭和二十九年三月十日となるから、本件消費貸借は右金額の限度において右同日を最終返済期として有効に成立したものといわなければならない。
次に被告は昭和三十年六月二十三日原告に対し当時の元利金残額全部の支払に代えて被告名義の電話加入権を譲渡した旨主張するが、証拠によれば原告は本件貸付と同時に元利金の支払を担保するため被告から右電話加入権につき譲渡担保の設定を受け名義書換未了中のところ期限に返済がなかつたので右担保の約旨に従い右電話加入権を売却処分して弁済に充当することとしたが、これを果すまでに他の債権者が差押をなすのを防ぐため右名義書換の手続をなしたものであることしかして昭和三十年九月二十日右電話加入権を株式会社三井信託銀行に金九万円で売渡し右譲渡に伴い被告が当然負担すべき滞納電話料金等合計一万七千八百九十九円の立替払をなした結果本件貸金につき差引金七万二千百一円の内入弁済を受けたことが認められるから前記名義書換の一事によつては勿論被告の前記主張を認めるに由がないのである。
しかして以上の説示並びに元本及び利息についての内入弁済を計算した結果によれば、原告の被告に対する貸金中元本残金は十六万四千四十一円六十七銭となるから、原告の本訴請求は右元本残金及びこれに対する昭和三十年六月二十九日から完済に至るまで約定利率を旧利息制限法所定の制限内に引直した年一割の割合による遅延損害金、並びに同月二十八日の遅延損害金支払残金四十四円七十銭を旧利息制限法所定の制限内に引直した金十二円二十五銭の支払を求める限度において正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却する。